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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11905号 判決

原告

株式会社ミロク経理

右代表者代表取締役

鈴木啓允

右訴訟代理人弁護士

和泉芳郎

勝木江津子

右輔佐人弁理士

山本清

被告

株式会社日本ミロク票簿

右代表者代表取締役

鈴木桂一郎

右訴訟代理人弁護士

北野昭式

酒井紳一

建入則久

主文

一  被告は、別紙第二目録記載の伝票会計用伝票を製造し、販売し、頒布してはならない。

二  被告は、前項記載の伝票及び右伝票の製造に使用する原版を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和五三年一二月一四日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  この判決は、第三項及び第四項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨の判決及び仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和三八年一月二八日に設立された株式会社であつて、別紙第一目録記載の伝票会計用伝票(以下、「本件伝票」という。)の製造販売を主たる業務としている。

2  本件伝票の主な特色は、伝票会計用複写伝票を起票した後、各勘定科目別に段落的にバインダーにファイルすることにより、記帳会計の帳簿と同様の一覧性と、転記を必要としない伝票会計の正確性及び迅速性を兼ねているところにある。

3  本件伝票の形態の特異性

本件伝票は、前項のごとき特色を有するため、すべての伝票及び各一組の伝票を構成する各葉の伝票はすべて伝票の上辺に余白を置くことなく第一行欄が設けられ、月日、摘要、金額その他が記入でき、伝票の左右両側に等間隔の整理穴がある。

そのほかにも、本件伝票は、別紙第一目録の各伝票の形態の記述のごとく、伝票上に設けられた縦横の罫線の太さ各欄の配置、段数、整理穴の数、使用文字の形及び大きさ、各葉の伝票の罫線及び文字の色彩などが工夫され、独自のフォームを有しており、一見して原告の伝票であると識別できる明白な形態上の特異性を有している。

4  本件伝票の形態の周知性

(一) 原告は、設立以来本件伝票を製造し、講習会を通じて使用方法を説明するなどしながら、全国の一般企業、学校法人、地方自治体、各種団体、職業会計人等にこれを販売しており、現在そのユーザーは四万八〇〇〇社に及び、年間販売数量三〇〇万冊以上、年間販売金額一八億円程度で、一覧式伝票会計用伝票としてはわが国内において、九〇パーセント以上のシェアーを占め、右市場を長年にわたりほぼ独占している。

(二) 本件伝票は、その形態上の特異性及び長年にわたる全国的にほぼ独占的に普及販売してきた実績により、昭和四〇年頃には、一覧式伝票会計用伝票といえば本件伝票を、また本件伝票を見れば直ちに原告の製品であると判明するまでに広く知られるに至り、本件伝票は、その形態自体で原告の製品であることを示す表示として全国の需要者間に広く認識されるようになり、更に昭和四八年ころにはその周知性が全国的に徹底するに至つた。

5  被告は、昭和五一年三月に原告の取締役を辞任した鈴木桂一郎が代表取締役となり、同年一〇月二五日に設立した株式会社であつて、別紙第二目録記載の伝票会計用伝票(以下、「被告伝票」という。)の製造販売を主たる業務としている。

6  被告伝票の形態

(一) 被告伝票の形態は、別紙第二目録記載のとおりであつて、いずれも対応する別紙第一目録記載の本件伝票の形態と対比してみても、上辺に余白のない点、伝票の左右に整理穴を有する点、各欄の配置、縦横の罫線の太さ、段数、整理穴の数、使用文字の形態及び大きさ、各葉の伝票の罫線及び文字の色彩など全く同一かもしくは極めて類似しており、被告伝票は本件伝票の完全な模倣である。

(二) 一例として、別紙第一並びに第二目録の各Ⅰ(以下、別紙第一目録の1を「本件伝票のⅠ」と、別紙第二目録の1を「被告伝票のⅠ」との如く表記することがある。)の仕訳票について両者を対比してみると以下のとおりである。

(1) 完全同一部分

イ 伝票の左右両側に整理穴スペース(一五ミリメートル)を有し、この整理穴スペースの中央から等間隔(五ミリメートル)毎に縦方向へ整理穴が設けられている。

ロ 伝票の第一行の上辺及び最下行の下辺には余白がなく、これら上辺及び下辺の各側縁がそれぞれ伝票の上下の枠線を構成している。

ハ 上側縁から最上段の整理穴の上端に至る間隔及び下側縁から最下段の整理穴の下端に至る間隔は各二・五ミリメートルに設定されている。

ニ 記入欄は、左右両側の整理穴スペースに囲まれる内部に設けられている。

ホ 整理穴の数は、六個であり、行間隔は、九・五ミリメートルである。

ヘ 伝票の横幅二一〇ミリメートル、記入欄幅一八〇ミリメートル、縦幅五七ミリメートルである。

ト 項目欄左右に金額欄と金額欄の下段に集計欄が各一行もしくは複数行設けられ、これら金額欄及び集計欄に囲まれる部分に左から借方科目、月日、摘要、貸方科目の各記入欄が第一行に区分され、その下段に予備の記入欄を有し、伝票下段部にタイトル欄、押印欄、伝票ナンバー欄等の各欄が区分され設けられている。

チ 整理穴スペースの区分線、金額欄と集計欄、予備欄と他の欄との区分線は中罫線を用い、他の行線、金額の位取線は細罫線が用いられている。

リ 文字は、活字の天地を圧縮して使用している。

ヌ 一葉目紺、二葉目緑、三葉目橙の色で印刷された三枚組伝票である。

(2) 類似の部分

伝票各葉の名称が、本件伝票のⅠは「票」であるのに対し、被告伝票のⅠは「票簿」である。

(3) 非類似部分

全くない。

7  本件伝票と被告伝票の混同

被告は、本件伝票を完全に模倣した被告伝票を販売するにつき、原告の本件伝票のパンフレット、価格表を模倣したパンフレット、価格表を作成して、これを原告のユーザーを含む需要先に被告伝票の見本を付して送付するなどして、混同を助長する販売手段をとつているのみならず、被告の商号も原告の商号と類似することもあつて、原告に販売先からたびたび問い合わせがあるなど混乱が生じている。すなわち、被告による被告伝票の製造販売行為は、需要者が被告伝票を原告の本件伝票と混同する事態を生じさせている。

8  本件伝票と被告伝票は競合関係にあり、両者が混同されることによつて、原告の営業上の利益は現に甚しく侵害されており、今後も継続して侵害されるおそれがある。

9  原告の損害

(一) 被告は、前記のとおりの不正競争行為をするにつき故意又は過失があつたから、右製造販売行為によつて原告が被つた後記損害を賠償する義務がある。

(二) 被告は、昭和五一年一〇月ころから被告伝票を製造販売しており、その総売上高は少なくとも一億円を超えている。

被告が被告伝票を製造販売することによつて得た利益は、右一億円の二〇パーセントにあたる二〇〇〇万円を下らないので、原告は、被告の被告伝票の製造販売行為により、少なくとも二〇〇〇万円の損害を被つた。

10  よつて、原告は、被告に対し不正競争防止法第一条第一項第一号の規定に基づき、被告伝票の製造販売頒布の差止と、被告が所有する右伝票及びこれを印刷するための原版の廃棄を求めるとともに、損害賠償として前記損害金の内五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年一二月一四日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1及び2の事実は認める。

2  同3の事実中、本件伝票が伝票の上辺に余白を置くことなく第一欄が設けられ、月日、摘要、金額その他が記入できることは認める。また、別紙第一目録記載の本件伝票の形態の記述中、文字は天地を圧縮して使用しているとの点のほかは認める。文字は、正体、長体、平体を各使用している。その余の請求の原因3の事実は不知。

3(一)  請求の原因4(一)の事実は不知。

(二)  同4(二)の事実は否認する。

4  請求の原因5の事実は認める。

5(一)  請求の原因6(一)の事実中、被告伝票の上辺に余白のない点、左右に整理穴を有する点、段数、整理穴の数は認める。また、別紙第二目録記載の被告伝票の形態の記述中、文字は天地を圧縮して使用しているとの点のほかは認める。文字は、正体、長体、平体を各使用している。その余の請求の原因6(一)の事実は否認する。

(二)  本件伝票と被告伝票とは、細部まで検討すれば次のとおり明らかに相違している。

(1) 伝票各葉の名称が、本件伝票は「票」であるのに対し、被告伝票は「票簿」である。

(2) 本件伝票(たとえば、本件伝票の1ないし6、21、31)には、大部分、品番(商品番号)が大きく記載されているが、被告伝票には右記載は一切ない。

(3) 本件伝票の3の仕訳票については、「仕訳票」との記載のほか、中央に白ぬきで「借方応用票付」と印刷してあるが、被告伝票の3の仕訳票簿には、白ぬき部分はなく、単に「借方応用仕訳票簿」と記載されているだけである。

そのほかにも、本件伝票の11、21と被告伝票の11、21のように、本件伝票が白ぬきの表示をしているのに対し、被告伝票がこれをしていないものがある。

(4) 本件伝票の7と被告伝票の7とを比較すると、本件伝票の7は「複合票」となつているのに対し、被告伝票の7は「複合補助票簿」となつている。

(5) 本件伝票の14ないし20と、被告伝票の14ないし20とを比較すると、両者は次のとおり全く異つている。

まず、欄の設け方が、本件伝票は金額欄を左右に分けているのに対し、被告伝票はいずれも右に寄せている。

被告伝票の14は、整理穴は片側で五ケ所であるが、本件伝票の14では、片側で四ケ所である。

たとえば、本件伝票の17では、「振替票」としているが、被告伝票の17では、「仕訳応用票簿」としていること、本件伝票の18、19では、「振替票」としているが、被告伝票の18、19では、「仕訳応用票簿(借方細目用)」としているなど、伝票の名称、その大きさ、位置が異なる。

(6) 本件伝票の22は、伝票中央に大きく「日計仕訳票」と印刷してあるが、被告伝票の22は、欄外に極く小さく「日計仕訳票簿」と記載してあるだけである。

(7) 本件伝票の30と被告伝票の30とでは、枠の組み方、線の太さが異なる。

6  請求の原因7の事実中、被告が原告のパンフレット等を模倣している点及び本件伝票と被告伝票とに混同が生じている点は否認し、その余は不知。

需要者は、伝票を冊を単位として購入するものであるところ、本件伝票の表紙は、全体として青つぽく、原告名の記載があり、特定のマークがなく、背表紙が赤であるのに対し、被告伝票の表紙は、全体として赤つぽく、被告名の記載があり、日本列島を車輪様のマークがとり囲むようなマークが大きく印刷されており、背表紙が黒であるように、両者の表紙、背表紙が明白に異なるのであるから、需要者が本件伝票と被告伝票を誤認混同するおそれはない。

7  請求の原因8及び9の事実は否認する。

三  被告の主張

1  原告が、本件伝票の商品表示として主張する形態上の特徴は、いずれも伝票の技術的機能に由来する必然的な結果であるので、不正競争防止法の保護は求めえない。

(一) 伝票を一覧形式にファイルした場合に伝票相互の行間に余白を生ずることなく、各行が連続して表示されるようにするためには、伝票の上辺に余白を置くことなく第一欄を設けるという形態をとるほかはないので、右形態は技術的機能に由来する必然的な結果である。

(二) 伝票を一覧形式にファイルするとき、伝票を同一のバインダーの左右のいずれの側にもファイルすることができるためには、左右の整理穴相互の間隔はともにそのバインダーのとじ具の歯の間隔に一致しなければならず、しかも伝票を段落的にファイルするためには、伝票の同じ側に設けられた整理穴相互の間隔はすべて等しくなければならないので、右形態はいずれも技術的機能に由来する必然的な結果である。

(三) 罫線の太さは人類共通の財産であつて、原告の独占を許すべからざるものであり、しかもそれぞれの記載内容に対応して細い罫線、太い罫線が用いられているのであつて、その使い分けは記帳者の便宜を考えた伝票経理上の技術的機能に由来する。

(四) 会計伝票あるいは帳簿がその機能を発揮するためには、借方科目、貸方科目及びそれぞれの金額、月日、摘要欄が必要不可欠であり、一覧式伝票会計用伝票の場合、更にファイルして統一ある帳簿の形態をとる必要から、必然的に第一行欄目に借方科目、貸方科目及びそれぞれの金額、月日、摘要欄が集中する必要が生じ、また伝票自体が帳簿を兼ねるため、集計欄が必要であるのであり、いずれも技術的機能に由来する必然的結果である。

(五) 帳簿には、取引の月日、貸方と借方の金額及び摘要等の記載が不可欠で、そのためのいくつかの段数の行が必要となる。ところが、この段数は、一覧式にファイルする場合においては帳簿が分厚くなるのを避ける必要から段数自体制約されるのであり、技術的機能に由来するものといえる。

(六) 伝票をファイルする際に、整理穴の数があまりに少ないと伝票を充分固定できないため、伝票を安定させるいくつかの整理穴が必要となる。そこで、伝票を台帳に固定するために一行ごとに対応する整理穴が設けられているのであり、これも技術的機能に由来するものといえる。

(七) 色彩は人類共通の財産であり、原告の独占すべからざるものである。各葉の伝票の罫線及び文字の色彩が枚数ごとに違うのは、使用者に対しいかなる勘定科目にファイルするのかを色彩を違えることにより、一見して誤りなくファイルさせるためであり、技術的機能に由来する。

2  本件伝票の形態は、次の二つの理由から出所表示機能を有する商品表示とはいえない。

(一) 商品の形態は、本来当該商品がめざす特定の使用目的ないし機能を果す上で、その客体的、外部的表現としての内容がおのずから制約された態様の範囲内にとどまらざるをえず、したがつて、商品の形態が本来商品主体の識別を直接目的とする氏名、商号、商標等の表示と同様に出所表示機能、自他識別機能を備えるものと評価されるためには、当該商品の使用目的ないし機能の評価の面と一応切り離して、なおかつ需要者の感覚、購買心理、選択意欲、消費行動により端的に訴える表示としての素朴な統一的把握を可能とする表現力・吸引力を具備すべきことを要する。

しかるに本件伝票は、枚数の組合せ、印刷文字の種類等において伝票の使用目的に従つた各種の形態が併存しており、完成された商品としての各伝票の形態は、需要者にとつて使用目的ないし機能の評価を一応離れて商品表示として端的に商品選択、消費行動に訴える素朴な統一的把握を可能とする表現力・吸引力を具備していない。

(二) 本件伝票は、一般店頭販売によらず、従業員ないし解説書により会計内容に従つた使用方法に関する実習を含めた技術的説明を行つて需要者に訴えた上で販売を行つており、需要者も、その事業内容の必要に応じた会計業務処理の繁簡、帳簿処理、検索の便、不便などの多角的な観点から伝票の組合せ、記入方法、ファイル方法などを事務的、技術的に検討してこれらに着目して本件伝票を選択採用しているのであつて、需要者が技術的観点を離れ、本件伝票の形態自体から該伝票が原告の商品であると判断して選択採用しているのではない。したがつて本件伝票の形態は、出所表示機能を保有していない。

3  先使用の抗弁

本件伝票及び被告伝票は、いわゆるミロク式票簿システムと呼ばれるものであり、被告の代表者鈴木桂一郎の父訴外鈴木安平が考案し、昭和三一年一二月一四日に会計簿記帳として実用新案登録出願をし、登録番号第五〇一六八〇号として登録となつたものをその基本とする。右会計簿記帳は、上辺に余白がないこと、左右両側に等間隔の整理穴を有するという形態上の二大特徴を有するほか、左右に受方及び払方欄が、伝票の中央部に摘要欄が、伝票の下部に日付欄、勘定科目欄等がそれぞれ配置され、かつ色別に分類されているという形態上の特徴を有していた。

鈴木安平は、昭和三二年四月から鈴木桂一郎らと共に経税理実務協会という名称(昭和三五年にミロク経理協会と名称変更)でミロク式票簿の販売、普及活動をした。その後昭和三八年ころ、票簿の売り上げが増加し、税務署の指導もあり、同年一月に原告(当時は株式会社ミロクとの商号)を設立した。原告は、鈴木安平から右ミロク式票簿の実用新案権等の使用及びミロク式票簿システムの普及販売のノウハウ等の営業の許諾をえて、ミロク式票簿の製造販売をしたが、その後も鈴木安平の主宰するミロク経理協会は、ミロク式票簿の普及、販売、指導をし、原告とは別個の存在として活動していた。そして、昭和五一年二月ころ、鈴木安平は、原告との間の前記営業等の許諾契約を解除し、改めて被告にミロク式票簿の製造、販売、普及等営業の許諾を与え、被告は、善意で、もともと鈴木安平や鈴木桂一郎らが行つていたミロク式票簿の製造、普及、販売等の営業を承継した。

4  権利濫用の抗弁

不正競争防止法が他人の成果に只乗りする行為を禁ずるという趣旨を包含するものであることからも、先使用の抗弁に記載のような事情の下においては、原告こそが鈴木安平の成果に便乗しているのであつて、このことを等閑に付し、正当に鈴木安平から許諾を受けて営業をする被告に法外な要求をすることは権利の濫用といわなくてはならない。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1は争う。

原告は、本件伝票の全体としての形態が周知性により出所表示機能を有すると主張しているのであるから、本件伝票の形態をその構成部分に分解して、各部分につき個別的に技術性を論じることには何の意味もない。

2  同2は争う。

表示としての素朴な統一的把握を可能とする表現能力・吸引力なるものは、不正競争防止法第一条第一項第一号の趣旨に全く無関係のもので、それ自体極めて不明解かつあいまいで、具体性を欠き、到底出所表示機能、自他識別機能の評価基準たりえない。

3  同3の事実中、鈴木安平が同人の考案にかかる実用新案権(登録番号第五〇一六八〇号)の企業化を企画し、昭和三二年ころ権利能力なき社団である経税理実務協会を設立したこと、右協会が前記実用新案権の実施品であるミロク式票簿の普及販売を行つたこと、同協会が後にミロク経理協会という名称に改称したこと、昭和三八年一月二八日、税務署からの指導もあつて原告が設立(当時の商号は株式会社ミロク)されたこと、原告が昭和三八年二月から昭和五一年二月まで前記実用新案権等の使用許諾を鈴木安平から受け、同人に許諾料を支払つていたことは認めるが、その余は否認する。

鈴木安平は、経税理実務協会を設立はしたが、その後のミロク経理協会、原告とも、実態は、原告代表者鈴木啓允が営業面の中心人物として活動してきており、鈴木安平はあくまで前記実用新案権の考案者として許諾料を得るにとどまり、協会の理事や原告の役員として経営に参加したことは一度もなかった。また、鈴木桂一郎は、商業デザイナーとして、本件伝票の宣伝のため、広告用リーフレット、パンフレットのデザインに従事したことがあるのみで、独自に伝票の製造、販売等を行つたことは一度もない。

もっとも原告設立後しばらくの間は、票簿の普及指導部門として、ミロク経理協会が原告と併存的に存在していたことはあるが、右協会から独自に給与を受けていた従業員は二、三名にすぎず、実情はほとんど原告の従業員によつて運営されていた。そして、その後、昭和四二年一月一日から、原告の経理とミロク経理協会の経理は一本化され、ミロク経理協会は、原告に完全に吸収されて消滅した。

4  同4は争う。

本件伝票が周知性を有するに至つたのは、原告の営業努力の賜であり、被告の主張は本末転倒である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告が本件伝票を製造販売する会社であることは当事者間に争いがない。

二原告の本訴請求は、商品の形態が不正競争防止法第一条第一項第一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当することを前提とするものであるから、まずこの点につき判断する。

商品の形態は、一次的にはその商品の目的とする機能をよりよく発揮させるための技術的要請ないし需要者の嗜好を考慮した美感等の観点から選択されるものであつて、商品の形態の果たす技術的機能ないし美感等にのみ着目して需要者が商品を購入する限りにおいては、その商品の形態が特定人の商品たることを示す表示とはいえないことが明らかである。しかしながら、技術的要請ないしは美感等への配慮の制約の範囲内ではあつても、ある商品の形態が他の同種商品の中にあつて特別顕著性を有する場合、永年にわたり排他的に使用されてきた場合、その形態に関して強力な宣伝が行われてきた場合あるいは、それらの事情が複合的に生じた場合には、その商品の形態が、二次的にではあるが、出所表示機能を備えるに至ることがあり、この場合には、商品の形態自体が特定人の商品たることを示す表示に該当すると解すべきである。

三そこで、本件伝票の形態が不正競争防止法第一条第一項第一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当するか否かについて検討する。

1  本件伝票が、それぞれ上辺に余白を置くことなく第一欄が設けられ、月日、摘要、金額その他が記入できることのほか、別紙第一目録記載のとおりの形態(但し、文字が天地を圧縮して使用しているとの点を除く。)を有していることは、当事者間に争いがなく、右事実及び〈証拠〉によると、本件伝票すべてに共通する形態は、(一)伝票の左右両側に整理穴スペースがあり、このスペースに等間隔に縦方向に整理穴が設けられていること、(二)伝票の第一行の上辺及び最下行の下辺には余白がなく、これら上辺及び下辺の各側縁がそれぞれ伝票の上下の枠線を構成しており、各欄に月日、摘要、金額その他が記入できるようになつていること、(三)整理穴スペースの区分線、金額欄と集計欄、予備欄と他の欄との区分線は中罫線を用い、他の行線、金額の位取線は細罫線を用いていること、(四)二枚ないし六枚組で複写式となつており(但し、本件伝票の7、13及び33を除く。)、右各組中の伝票の罫線及び文字は、紺、緑、橙、灰、黒等の色でカラフルに着色されていること、であることが認められる。

2  被告は、本件伝票の前記のとおりの形態は、技術的機能に由来する必然的なものであるので、不正競争防止法上の保護は求めえないと主張する。なるほど本件伝票は、伝票会計用複写伝票を記票後、各勘定科目別に段落的にバインダーにファイルすることにより、記帳会計の帳簿と同様の一覧性と転記を必要としない伝票会計の正確性及び迅速性を兼ねることができるところに特色があることは、当事者間に争いがなく、そして、前項記載の本件伝票すべてに共通する形態のうち、伝票の左右両側に等間隔に縦方向の整理穴が設けられている点は、複写伝票をバインダーにファイルし帳簿と同様の形態をとらせるために、各伝票の段落的配置を整える必要があり、そのため一方の側に設けられた整理穴がバインダーにあわせて等間隔に設けられなければならず、さらに帳簿の両面に使用できるようにするために、整理穴を両側に設ける必要があることに由来するものであり、伝票の上辺に余白を置くことなく第一欄を設けて、月日、摘要、金額その他が記入できるようにしてあるのも、ファイルされた伝票間に余白があると帳簿として見にくく、また無駄であることに由来するもので、本件伝票が二枚ないし六枚組の複写式となつているのも、これらのうちの一通に記票することにより、各勘定科目別の帳簿として使用しようとの技術的思想のあらわれである。しかし、整理穴を整理穴スペースとして明瞭に区分される範囲内に設けること、伝票の下辺に余白がなく、下辺の側縁が伝票の下の枠線を構成すること、各伝票の配色のほどこし方は技術的機能に由来するものとはいえないことも明らかである。

ところで、商品の形態は、前判示のとおり、一次的には、技術的要請ないしは美感等への配慮から選択されるものであるが、極めて単純な形態の商品であるような場合のほかは、通常は、一つの技術思想、一つの美感等への配慮から構成されるものではなく、各種の技術思想ないし各種の美感等への配慮の集積の結果であつて、場合によつては、これらの理由がないにもかかわらず選択される形態部分も加わつて形成されるものである。

このような場合、商品の形態の特徴は、単に右の諸要素を並列的に挙示することによつて、示されるものではなく、これらの組合わせのあり方のなかに存するものといわなければならない。したがつて、このようにして採用された形態を有する商品について、その形態の特徴の中から代表的なものをいくつか抽出し、これを抽象的文言で羅列した場合、かならずしも、その商品の形態上の特徴を示したものとはならず、それらの特徴がいずれも技術的機能に由来する不可避的な形態であると述べてみても、何ら意味をなさないものである。

本件についてこれをみるに、被告が本件伝票の形態は技術的機能に由来する不可避的なものであると述べるのは、形態中から抽出し、抽象的文言で表現した特徴であつて、前判示のとおり、これらが技術的機能に由来するとの側面を有していたとしても、直ちに、被告主張のような結論を出すことはできないうえ、前判示のとおり、本件伝票と被告伝票の備える特徴を抽象的文言で表現した部分においてすら、必ずしも技術的機能に由来するものでないところがある。それのみならず、本件伝票が一つの技術思想そのものの具現ではなく、各種の技術思想にそれ以外のものも加わつて、それらが組み合わされて一つの商品の形態となつていることは明らかであつて、たとえそれら組合わせの材料の構成が技術的機能に由来するものであつたとしても、その組合わせもまた、直ちに技術的機能に由来するということはできないから、本件伝票の全体的形態がすべて技術的機能に由来する不可避的なものとの結論を出すことはできない。

よつて、被告の前記主張は採用しえない。

3  〈証拠〉によると、次の事実が認められる。

(一)  伝票会計用伝票としては、昭和四〇年ころから現在に至るまで、本件伝票のほかに、株式会社イーザーの製造販売するイーザー式伝票、株式会社シーオーシー合理化センターの製造販売するCOC式伝票、アルフ伝票株式会社の製造販売するアルフ式伝票が存するが、イーザー式伝票は、伝票の左側にのみ整理穴が設けられており、バインダーの右側にのみファイルするようになつている点、伝票の下辺の側縁は伝票の下の枠線を構成しているのではなく、ここには伝票の種別のほか、電話番号等の文字が印刷されている点、整理穴スペースというべきものが明瞭に記入欄と区分されて存在していない点等において、本件伝票とは一見して明らかに異つており、COC式伝票は、イーザー式伝票と同様に伝票の左側にのみ整理穴が設けられており、バインダーの右側にのみファイルするようになつている点、フォームは一種類だけで、複写式とはなつておらず、必要な枚数を液体騰写機で複写するようになつている点等において、本件伝票とは一見して明らかに相違している。また、アルフ式伝票は、そもそも伝票には一切整理穴はなく、予めのり付けされた二本の併列テープ上にはり付けファイルするようになつている上、借方伝票、貸方伝票等が予め分割された形で重ねられており、最上欄に金額、摘要、月日その他を記入するようにはなつているものの、その下方には欄がなく一色に塗りつぶされている点等において、本件伝票とは一見して明らかに異つている。なお、年間売上高も、昭和五四年において、イーザー式伝票が一億五〇〇〇万円程度で、COC式伝票及びアルフ式伝票は、いずれも七〇〇〇万円程度である。

そのほか、原告の元従業員である酒井進が、昭和四六年ころ、SSビジネスフォームコンサルタントの名称で製造販売した本件伝票に類似する伝票会計用伝票があるが、これについては原告は別途製造販売の差止を求める訴を提起し、同事件は現在最高裁判所に係属中である。なお、同事件において同事件被告は、右伝票の製造販売は、昭和四九年以降行つていない旨述べている。さらに、株式会社サン・フォームが製造販売する、本件伝票に類似する伝票会計用伝票もあるようであるが、その詳細は不明である。

これに対し、本件伝票の販売実績は、昭和五〇年度には、八七万〇九七八冊で一八億三一〇〇万円、同五一年度には、八三万八二八五冊で一七億八三〇〇万円、同五二年度には、七八万七四〇〇冊で一七億七一〇〇万円であり、需要者は税理士等の職業会計人を除いても二万社近くに及び、伝票会計用伝票の販売市場においては圧倒的なシェアを維持してきている。

(二)  本件伝票は、鈴木安平が昭和三一年ころ考案した伝票会計のシステムを商品化したものであるが、鈴木安平は、右システムを普及するために昭和三二年四月ころ経税理実務協会(その後名称はミロク経理協会と変更されたが、いずれも権利能力なき社団であつた。)を設立し、本件伝票の製造、販売、普及、指導を行つていた。そして、昭和三八年一月二八日に株式会社ミロク(その後昭和四八年に現在の原告名に商号変更された。)が設立され(以上は当事者間に争いがない。)、本件伝票の普及、指導部門をミロク経理協会が担当し、製造、販売部門を株式会社ミロクが担当するようになり、その間昭和四二年には、ミロク経理協会の専属の担当者もすべて原告に移籍し、普及、指導部門も原告が担当するようになり、また、原告の商号が株式会社ミロク経理と変更された昭和四八年以降は、ミロク経理協会の名称も一切使用されないようにはなつたが、原告は一貫して本件伝票(その形態は、多少の変更はあつたもののほぼ当初から同一である。)を統一されたシステム(ミロク式票簿システム、ミロク経理帳票システムと呼ばれる。)として製造、販売してきた。

右統一されたシステムとは、1記載の本件伝票のすべてに共通する形態的特徴を含む本件伝票の全体的形態及びその目的とする伝票会計用伝票の統一された使用方法などによつて形成されたものである(なお、本件伝票には、伝票として性質上その各葉中に使用目的に従つて各種のものが併存していることは当然のことであるが、このこと故に本件伝票が統一されたシステムとして存在しえないことになるものではないこと明らかである。)。

(三)  原告は、株式会社ミロクとの名称で設立された当初から、ミロク経理協会の単名あるいは株式会社ミロクとミロク経理協会の連名で、また昭和四八年以降は原告の単名で、「企業診断」「企業実務」「税務弘報」「経理実務」及び「会社実務」の各雑誌にほぼ毎月本件伝票の広告を掲載させ、日本経済新聞にも本件伝票の広告を掲載させるなどして、全国的に宣伝してきた。

本件伝票の販売方法は、新規に購入する需要者に対しては、原告から各企業の経理係宛に本件伝票の説明講習会開催の案内を記載したいわゆるダイレクトメールを郵送して、講習会に参加した需要者に本件伝票の技術的特徴、利点を説明し、同時に伝票の記入方法、帳簿の編綴方法を指導し、その後講習会参加者を個別に訪問して、企業実態にあつた使用方法等を指導して行うのが一般的であり、広告あるいは企業訪問による販売方法による場合でも、個別的指導をする必要がある。そして、このような講習会は、昭和四六年から同五三年までの八年間で合計七〇八回にわたり全国各地で開催され、合計三万五〇〇〇人もの人員がこれに参加した。

(四)  本件伝票は、伝票としての性格からも当然に、消耗品であり、需要者は日々これを使用し、順次新たな伝票を購入していかなくてはならないものである。そして、通常は、本件伝票の需要者である企業の会計担当者、職業会計人などは一旦その使用方法を習得したならば、格別に、後々に至るまで指導を継続せずとも機械的作業でこれを使用することができるのであつて、常に技術的機能の確認を怠らなくては使用を継続できないという程の複雑かつ高度な技術を必要とするものではない。したがつて、本件伝票は、最初に購入する需要者は、技術的観点に着目してこれを購入するという傾向にあるとしても、一旦使用を継続することとした需要者にとつてみれば、必ずしも常に技術的観点にのみ着目してその使用を継続しているのではなく、二次的にではあるにせよ、その形態の示す出所に着目してこれを購入し使用継続しているとの側面もあるものといえる。

4 以上認定した事実によれば、本件伝票の、いずれも統一されたシステムを構成する1記載の各特徴を含むその全体的形態は、その永年にわたり伝票会計用伝票の販売市場をほぼ独占し、大量に販売されてきた実績、永年にわたり継続的に宣伝広告がなされてきたことに加え、他の伝票会計用伝票に比して一見して明らかな特色ある全体的形態であることにより、遅くとも昭和五〇年ころまでには、日本全国の会計担当者、職業会計人等の会計事務を行う需要者において広く認識された、原告の商品たることを示す表示となつたものと認められる。

四本件伝票と被告伝票との混同

1  請求の原因5の事実及び被告伝票の形態が別紙第二目録記載のとおり(但し、文字が天地を圧縮して使用しているとの点を除く。)であることは、当事者間に争いがない。

2  前記載事実及び〈証拠〉によると、被告伝票は、そのすべてに共通する形態的特徴が、三1記載の本件伝票のすべてに共通する形態的特徴と同一であること、多種類にわたる本件伝票のそれぞれに対応する被告伝票が、対応して同一もしくは極めて類似したものであるということができる。もつとも被告が請求の原因に対する認否5において主張する本件伝票と被告伝票の各対応したものとの相違点のほかにも、本件伝票と被告伝票の各対応したものとには若干の相違点はあるが、既に認定の事実から明らかなように、本件伝票に組み入れられた各伝票は、原告が普及を図つてきた統一された伝票会計のシステムの下に使用されるための一部をなすものであり、一方、被告代表者尋問の結果から、被告伝票も統一された伝票会計システムの下において用いられるものであることが認められることを考えると、本件伝票も被告伝票もそれを構成する個々の伝票に着目されるというよりは、これを一括して一つの伝票会計用伝票として認識されるものというべきであるから、本件伝票と被告伝票とが、全体的に対応して同一もしくは極めて類似している中にあつては、右は、些細な相違点といつてよいものであつて、両者の形態は、識別全くないし極めて困難であることが認められる。

3 〈証拠〉によると、被告伝票の販売は、主として、パンフレット、価格表及び見本として被告伝票を同封した書類を、本件伝票の需要先を含む需要先に郵送するなどの方法をもつて行われているところ、同封されるパンフレットの体裁及びその中に記載されている図面等も本件伝票のパンフレットと類似しており、原告名と被告名も、「ミロク」との経理伝票販売業者の名称としては特殊な部分が共通していること、被告の設立されて間もない昭和五二年当初から、被告の価格表には「票簿システムのパイオニア」との表示がなされていたことが認められ、本件伝票と被告伝票の形態が識別全くないし極めて困難なほどに類似していることに、右認定の事情が加わつて、本件伝票と被告伝票とが混同される状況が生じていたものと認められる。

4 以上認定した事実によると、被告は、本件伝票と極めて類似する形態の被告伝票を製造販売し、

仕訳票簿(三枚目)

もつてこれが原告の商品であるかのように需要者をして混同せしめており、右混同が将来にわたつても生ずるおそれがあるものというべきである。

被告は、本件伝票と被告伝票とは、いずれも冊を単位として購入され、その表紙が両者全く異なるので、混同されることはない旨主張するが、両者の形態上の類似性のほかに、前認定のとおり、被告伝票の販売に付随する諸状況には、本件伝票との混同を助長するかの如き事情も存するので、これらの事情をも考慮すると、右のような表紙の色彩の相違をもつて、両者が混同することがないということはできない。

五先使用の抗弁及び権利濫用の抗弁について

1 本件伝票の販売当初からの経緯については三3(二)において認定したとおりである。被告は、被告の代表者鈴木桂一郎及びその父鈴木安平は、原告の設立後も本件伝票を独自に販売継続してきたと主張するけれども、鈴木安平の主宰するミロク経理協会は、昭和四二年ころからは実体が存せず、原告の本件伝票の普及、指導をする一部門となつており、昭和四八年以降はミロク経理協会との名称も消滅したのであるし、〈証拠〉によると、鈴木安平は、本件伝票の統一的システムの基本となる実用新案権を原告に実施許諾する者との立場及び原告の最高顧問としての立場をも兼ね、鈴木桂一郎は、昭和四二年以降は原告の取締役の地位にあつたことが認められるのであつて、本件全立証をもつてしても鈴木安平及び鈴木桂一郎が個人として本件伝票の販売を行つてきたと認めることはできない。

そうすると、不正競争防止法第二条第一項第四号による先使用の主張をするためには、相手方の表示の周知性獲得以前から現在まで使用を継続していることが前提となるので、昭和五一年に被告伝票の販売を開始した被告は、その余の点につき判断を加えるまでもなく、使用の継続性の要件を欠いており、先使用の抗弁を主張しえない。

右認定に反する〈証拠〉は、いずれも措信しない。

2  前認定によると、被告の先使用の抗弁の項において主張する事情が認められることを前提とする、被告の権利濫用の抗弁もまた理由がない。

六本件伝票と被告伝票とが混同され、また混同されるおそれがあり、右混同により原告はその営業上の利益を害されるおそれがあることは、前認定の事実から明らかであり、被告の抗弁は、いずれもこれを採用しえないから、原告の本訴請求中、被告伝票の製造、販売、頒布の差止を求める部分及び侵害の予防に必要な措置として、被告の所有する被告伝票及び右伝票の製造に使用する原版の廃棄を求める部分は、理由がある。

七損害

1  前認定事実によると、被告は、前記不正競争行為をするにつき少なくとも過失があつたものと認められるから、これにより原告の被つた後記損害を賠償すべき義務がある。

2  〈証拠〉によると、被告は、被告伝票の製造販売のほかは、これに付随する器具等の販売を行つており、昭和五一年一〇月二五日から同五二年九月三〇日までの間の売上高は、二七九二万二四七五円、昭和五二年一〇月一日から同五三年九月三〇日までの間の売上高は、三一九八万三七四一円で、合計五九九〇万六二一六円であることが認められ、一方、前認定のとおり、本件伝票は、伝票会計用伝票の販売市場においては圧倒的シェアを有し、一旦その使用法を習得した者にとつては、継続的にこれを使用していくことに利点

1. 仕訳票(三枚組)

があること、その他被告伝票の販売態様等を考慮すれば、被告伝票の売上なかりせば、それだけ本件伝票の販売量が増大したであろうことを推認することができ、前掲各証拠によると、本件伝票の販売により得られる純利益は、販売価格の二〇パーセントを下ることはないと認められるので、原告は、被告伝票の製造販売により少なくとも五〇〇万円の得べかりし利益を失つたものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3 よつて、被告は、原告に対し金五〇〇万円及び被告に対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和五三年一二月一四日以降支払済に至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

八結論

以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、なお、差止及び廃棄を求める部分についての仮執行の宣言を求める申立は、相当でないからこれを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官元木 伸 裁判官飯村敏明 裁判官高林 龍)

第 一 目 録

別紙原・被告の伝票の形態対比表の上段に記載された形態を有し、目録1ないし33(本件伝票)記載の伝票会計用伝票

2 仕訳票簿(四枚組)〈省略〉

第 二 目 録

別紙原・被告の伝票の形態対比表の下段に記載された形態を有し、目録1ないし33(被告伝票)記載の伝票会計用伝票

2 仕訳票(四枚組)〈省略〉

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